44歳の僕がステージ4の大腸がんと診断されて

2016年大腸がん発覚。手術後、腹膜への転移が確認されステージⅣだと告知される。その後半年間に及ぶベクティビックス抗がん剤治療を受ける。2018年12月がん再発。アバスチン抗がん剤治療を受ける。48歳になりました。

抗がん剤の副作用を気にしつつも休薬期間中に一人で旅行に行く。3日目、大阪城へ【がん闘病記39】

この記事ではヨシノ (id:yo_kmr)が2016年の7月中旬ごろに書いたメモをまとめています。

旅行最終日。大阪城へ行ってみる

<昨日まで>

抗がん剤治療の休薬期間中に旅行に行こうと思い立ち1日目は伊勢神宮へ、2日目は大阪天王寺のあべのハルカスへ行った。

2日目の夜、体調が割とよかったことに気をよくして暴飲暴食してしまい下痢に苦しみ眠れない夜を過ごす。

 

がん患者である僕が歩いて大阪城まで行くことは難しい 

2016年7月。

そして今日は旅行3日目の朝。当然昨日からの下痢と寝不足で体調はよくない。

ホテルを午前10時にチェックアウトし、大阪城を目指すことにする。

下調べもそこそこに、京橋駅の隣の大阪城公園駅まで行ってみる。

駅構内のコインロッカーに手荷物を預けていざ大阪城へ。

ん?駅を出てあたりを見回してみても手前に緑豊かな公園が見えるだけで大阪城が見えない。

「大阪城公園駅」って駅名だから駅を出たらすぐ大阪城があるものだと、少なくとも大阪城の天守閣くらいは目視できるものだと思っていた。

ちょっと大阪城舐めてたかもしれない。

駅を出てすぐ前方に案内板らしきものがあったのでそこまで歩いていると、なにかの係員らしい格好したおじさんが叫んでる。

近くまで行ってみると、

「大阪城へはロードトレインが便利でーす!」

って叫んでる。

その叫んでいたおじさんに実際どう便利なのか尋ねてみると、大阪城に近いとこまで公園内を走るバス?みたいなもので連れて行ってくれるらしい。

所要時間は15分程度。 ゆっくりめのスピードで走るらしい。

歩いても急げば20分くらいで大阪城までたどり着けるので公園内をゆっくり見て回りたいのなら歩いた方がいいとのこと。

この真夏日の日差しの中そんなに歩いてられない、とロードトレインのチケットを購入することにした。

料金は片道300円、往復で500円とのこと。(2016年7月時点での料金)

ここはもう往復で。

チケットを購入しているとロードトレインがやってきた。

 

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ロードトレイン

 

機関車の形を模した牽引車らしきものに向かい合わせ6人掛けのゴンドラが5台くらい引っ張られている。

座って待っていると観光客らしき人たちがパラパラと集まって乗車してきた。

ほどよく席が埋まったところで発車のアナウンスとかベルとかないままに、なんだかぼやっとした感じでロードトレインはなんとなく進みだした。

 

速度は自転車よりもちょっと早いくらい。

でもこれくらいの速度の方が周りの景色とか楽しめてちょうどいい。

しばらく乗ってみて、これは間違いなく正解だと確信する。

駅前の広場から大阪城までけっこうな距離だ。

公園内はとても広く、ジョギングしている人、自転車で走っている人などをちらほら見かける。

これは割と真剣に走っていかないと20分くらいで大阪城にはたどり着けそうにない。

というより今の僕の体調では歩いていってたら途中でリタイアしてたかも。

ロードトレインは大阪城のお堀の周りをぐるっとまわって極楽橋の手前の広場で停まった。

降りたらすぐ大阪城に入れる距離ってわけでもないがここまで歩いて来ることを考えればかなり近くまで運んでくれた方だ。

ありがとうロードトレイン。帰りもよろしくね。

 

ロードトレインのお陰で楽々と大阪城前まで到着

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お堀にかかる橋、極楽橋を渡っていく。

ああ、僕はどっちかというとこのお堀の方にロマンを感じる。

お堀大好き。

その昔、忍者とかがこのお堀を超えて城内に侵入しようとしてたのかな?なんて想像するだけでワクワクする。

 

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お堀を越えたところでしばらく坂道が続く。

なんだかもうくじけそうだ。

日陰で座れる場所を探しつつ、休み休み進んでいく。

 

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坂道も一直線ってわけでもなく曲がり角が何か所かある。

外敵から攻め込まれにくような構造なのかな。

えっちらおっちらでやっとこさ大阪城の真下までたどり着いた。

やっぱり真下から見ると迫力あるなあ。

 

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入場料を払って大阪城内へ入る。

エレベーターで5階まで行けるらしい。

え?エレベーター?

さすがに秀吉のころの時代からのものが完全に残っているはずもなく、大阪城の中身は近代的な設備が整っていた。

エレベーターか階段で行くかで行列が分かれており、僕は迷わずエレベーターへ。

エレベーターは平日の午前中でも混雑してて、しばらく行列に並んで待つことにした。

観光って結局のところ待つ事なんだとつくづく思う。

これが休日ならなおさら待つ事になっていただろう。今日来てよかった。

 

エレベーターで5階まで上がったあとは階段で8階の最上階まで行かないといけない。

各階に展示物があるのでそれを見つつ休みつつ、ゆっくり登っていく。

時間はかかったがなんとか最上階までたどり着いた。

これが太閤秀吉が見ていた景色なのかあ。

ここから大阪の街を見下ろしていた天下人って感じだったのかな。

 

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しばらく景色を堪能した後、下りることに。

下りるのは階段オンリーらしい。

まあ登るのに比べたらマシだけど、休みながらゆっくり下りていった。

 

すごく良いタイミングのロードトレインに驚く

大阪城公園駅に戻るときもロードトレインを利用するのだけどタイミングよく乗れたらいいな、なんて考えながらお堀にかかる橋を渡っていると、すでにロードトレインは極楽橋前の広場に停まっていてけっこうお客さんも乗って待っている状態だった。

目の前で出発されてはたまらないと、ここは頑張って早足で近づく。

若い女性の係員らしき人にチケットを渡し、一番後ろの席が空いていたのでそこに座る。

それでも5分くらいは待って、また特に出発の合図もないままなんとなくロードトレインは動き出した。

動き出してすぐに女性の係員さんが「この度はご利用ありがとうございます」みたいなアナウンスを流していたが車両が古いせいか設置されてるスピーカーの音も途切れ途切れで何言ってるか前の方の人は分かんないだろうなと思った。

女性の係員さんが僕のすぐ後ろに座ってたのでいろいろ聞いてみた。

 

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「このロードトレインって休日はもっと混雑するんですか?」

 

「ええ、それはもうとっても多いですよ」

 

「実は僕、病気なんですっごい助かりました」

 

「わあ、そう言っていただけるとうれしいですー、実際公園の利用者さんからはロードトレインじゃまや。なんて言われたりするんで…」

 

「ははは、そうなんですか。でも大阪城公園駅って言うくらいだから駅を降りたらすぐに大阪城があるもんだと思ってたんですよ、駅を降りても大阪城が見えないからどうしよう、何を目指して進めばいいんだって不安になってたんですよ」

 

 「ふふふ、そうですよね、なんていうか地名詐欺っていうかー」

 

「だからすっごい助かりました。ありがとうございます。これってお年寄りとかにもいいですよね」

 

「そう言われるとホントうれしいです。実際、どの駅からも大阪城って遠いんですよね」

 

「そうなんですか、乗れてよかったです。大阪城公園駅前で叫んでいたおじさんにも感謝したいですね」

 

「本人に伝えときますー。きっと喜ぶと思いますよ。あ、それとこのバス4日目なんですー」

 

「あーそうだったんですか、でも新人さんにしては慣れた感じですね」

 

「いえ、そうでなくて運行4日目なんです」

 

「ええええええ!でもなんていうかこのバス自体けっこう古いというか使い込まれてるっていうか…」

 

「もともと10年くらい前に運行休止になったのが最近復活したんですよー」

 

「すごい良いタイミングで来れてビックリですよ」

 

「ホントですねー。ところで今回はどちらから来られたんですか?」

 

「僕、山口県から来ました」

 

「えええええ!私も山口県出身なんですー」

 

「うわあ、これまたビックリですね。すごい偶然だなあ」

 

なんてことを話しているうちに大阪城公園駅前の広場近くまで到着した。

係員さんにお礼を言って駅へ向かう。

ロードトレインのお陰で割とスムーズに大阪城観光ができたと思う。

ありがとうロードトレイン。

 

帰る前に名古屋で観光を…と思ったが疲れてしまった

さて、これから新大阪まで行って新幹線で名古屋まで向かう。

新幹線のチケットは指定席で片道6300円くらい。

名古屋からしか北九州空港への便がないからどうしても名古屋まで行かないといけない。

名古屋まで新幹線で1時間くらい。

名古屋に到着。

さあこれから名古屋を見て回ろう。といきたいところだけど、もう観光する余力はない。 疲れ果ててしまった。

駅周辺で軽くご飯食べたらそこでしばらくおとなしくしていよう。

ふと駅前の宝くじ売り場を見ると一昨日来たときは長蛇の列だったのが今は2~3人がちらほらいるだけ。

並ばないでいいなら旅の記念に買っておくかと3000円分購入。

結果は後で分かったことだけどハズレだった…

ざるきしめんを食べて帰ることに

お昼はデパートのレストラン街で「ざるきしめん」を食べてみた。 うん、なかなか美味いよざるきしめん。

なんていうか幅広い麺が噛み応えあるというか歯ごたえあるというか。と、最初の頃は思ってたんだけど食べ進めていくうちになんか飽きてきた。噛むのに疲れてしまった。

まだ少し抗がん剤の影響が抜け切れていないのかもしれない。食事の勢いが元気な時と比べるとやはり弱い気がする。

 

早めに空港に到着し、ロビーでしばらくおとなしく待っていると時刻は夕刻になり、搭乗時間になった。

夕暮れの名古屋空港。

すべての空気がオレンジに包まれ、滑走路に長く伸びる影の濃さがまだ夏の強い日差しを思わせる。

飛行中、黄金色に輝く雲海を見ながら北九州へ。

 

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到着した頃はすっかり暗くなっていた。

そこからは車で自宅まで帰る。

3日間、空港の駐車場に停めていた駐車料金は1,500円くらいだった。

この3日間、歩きっぱなしだったから久しぶりに車に乗ると気持ちいい。

今度は車でどこかに行こう。

夜9時ごろ無事自宅に到着。 何事もなく帰ってこれてよかった。 

 

大腸癌の抗がん剤治療の合間に旅行に行って思うこと

今回旅を終えて思ったことは「旅はいい」ってことだ。

見知らぬ土地での適度な緊張感、刺激。

行動予定に対する予想や想定外のことに対する対応。

新鮮な景色、情景に感動する。

何より癌のことをあれこれ考えなくて済むことが大きい。

癌のことを考える暇がないくらい次から次へと新しい刺激を受けることがいいのかもしれない。

 

真偽のほどは分からないが人づてでこんな話を聞いたことがある。 

 末期がんで余命宣告をされた人が死ぬ前にかねがね行ってみたいと思っていた世界一周旅行に出かけた。数か月に及ぶ旅行を終えて戻ってきてから病院で検査を受けたところ癌が消えていた。

という話だけど、もしかしたら旅行に行くことによって癌のことをくよくよ考えることがなくなり、結果的に免疫細胞が活性化して癌にうまく作用したのかもしれない。(人づてに聞いたことなので確かなエビデンスがあるわけではない)

たしかに一人で何もせずにいるとついあれやこれやとネガティブなことを考えてしまう。

そういった点を旅行は解消してくれるので気持ち的にも軽い、というか重苦しい気分になることが少なかった。

 

それと今回は一人旅の気ままさを十分に堪能したと思う。

行きたいところに行きたい時に気の向くまま向かう。

同行者がいるとこうはいかないが逆にデメリットもある。

感動を共有できないさみしさ、万がいち身体になにかあったときに誰にも頼れないという不安がある。

 

加えて今回は様々なことを勉強させてもらった。

 

世の中のすべての人は師である。そして全ての師は弟子であり、全ての弟子は師であるということ。

 

ちょっと何言ってるか分からないと思われるかもしれないが、僕が感じたことはすれ違う人それぞれから何かを受け取り与えることができるということ。

どんな人とでもギフトを受け取ることができ、与えることができる。

そういったやりとりがこの日常で常にスパークしている。

普段は当たり前すぎて気がつかないし見えにくいものだとも思う。

 

今回の旅でたくさんのものをたくさんの人達からいただいた。

自分は何を返せるだろうか。 少しでもお返しがしたい、役に立ちたいと思う。

そう思えるだけでもこの旅には価値があったのだと思う。