親孝行の真似事。抗がん剤治療の休薬期間中にデパ地下に行って母にお刺身を買ってあげた話【がん闘病記62】
この記事ではヨシノ (id:yo_kmr)が2016年の9月上旬ごろに書いたメモをまとめています。
5クール目の抗がん剤投薬終了から4日経過
2016年9月。
抗がん剤の副作用は今日も朝からキツかった。
吐き気を伴う倦怠感でつらさ度で言えば8くらいかな。
食欲も無くて朝コンビニで買ったサラダを休み休み1時間くらいかけて食べる。
もう、ヨレヨレでまったく元気がない。
そしてこれも抗がん剤の影響かどうか分からないけど、喉の奥がなんだかイガイガしてる感じがして食べ物が飲み込みにくい気がする。
サラダと果物メインの食事だとさすがに痩せてくる
体重も結構減ってきている。
昨晩測ったら64㎏くらいだった。
甘いものは極力摂らないようにしてるし、炭水化物もほとんど摂ってない。
炭水化物に関しては意識して摂らないようにしているわけではなく、舌の感覚がおかしくなっているのと嗅覚も変化しているので基本的には食べたくなくなっているせいだ。
特に炊き立ての白米の匂いなど嗅ぐと気持ち悪くなって吐きそうになる。
肉類もあまり味が分からないので食べたいと思わない。
しかしまあ、サラダと果物だけだとさすがにきついかな。
母の好物
今日は市内のデパートに行って地下の食品売り場で母のためにヒラソの刺身を買ってきた。
ヒラソとはブリと同属の白身の魚でそのお刺身は母の大好物だ。
地方によってはヒラスとかヒラマサとか呼ばれる場合もあり、その区別はあまりはっきりしていない。
なぜヒラソのお刺身を買ってきたかというと、ほんのささいなものでもいいので母が欲しいと思うもの、喜びそうなものを買ってあげたいという思いから。
物欲が無い母
母はあまり普段からあれが欲しいとかあれが食べたいとか言わない。
常に家族のためにその身をささげ、尽くしてきた人だ。
だから僕が母の日や誕生日とかに
「お母さん、何か欲しいものはない?」と聞くと。
「別にないねえ」と答える。
なのでいつも何をあげればいいのか分からず困っていた。
僕が子供のころ、というか物心ついてから母は服や宝飾、バッグなどといったものに一切興味を示さなかった。
それらの物を欲しいというそぶりさえ見たことがなかった。
仕事と家事に追われ自分のことはいつでも二の次三の次で常に家族のために働いてきた。
そんな母だった。
親孝行の真似事すらできていなかった
僕が幼かったころから母はすでにそんな感じだったのでそれが普通なんだと思っていけど、僕はここ数か月のあいだに大腸癌という大病を患ってからこのままろくに親孝行の真似事すらできずにこの世を去るのは申し訳ないと思うようになった。
母が喜ぶもの、欲しいものがきっと何かあるはずだ。そう思って母の好きなものを探ろうと注意深く観察していると、一緒に回転ずしを食べに行ったら白身の魚が好みらしいということに気付いた。
そして近所のスーパーで買ったパックのヒラソの刺身食べていたときに、
「あんまり新鮮じゃなかった…」と言ってがっかりしていたのを覚えていた。
だったらデパ地下ならいい物が置いてあるだろうと思って、市内のデパートまで買いに来た。
刺身が数切れ入って一人前1パック680円。
普段刺身のパックなんて買ったことないからこれが高いか安いかさえもわからないけどとりあえず買ってみた。
帰宅して母にヒラソの刺身買ってきたからね、晩御飯に食べてね。と告げ僕は抗がん剤の副作用の倦怠感がきつかったから自分の部屋に戻って休むことに。
喜ぶ母の姿を見て少し泣く
そして夕方台所に行くと母がおいしいおいしいと言いながら一人で刺身を食べていた。
そのデパ地下で買ったヒラソの刺身がとてもおいしかったらしく、僕は母から何度もありがとうねありがとうねと感謝された。
それはもう何度も何度も。
母が言う
「もう新鮮でおいしかったー!ありがとうねありがとうねえ、ホント幸せでしたー」
あまりにも感激してたので僕までうれしくなりなんだか泣けてきた。
母にバレないようにこっそりと父の遺影の前に行き、お線香をあげながら少しだけ泣いた。
考えてみると母がこんなにも喜んでくれた贈り物をしたことはなかった。
これまで母の日や誕生日にプレゼントはしてきたけどこんなに喜んでくれたことはない。
あんなにも喜んでくれた姿を見るとこっちまでうれしくなる。
ふとした思い付きだけど、やってよかった。
お母さんこちらこそいつもありがとう。
本当にありがとう。
今日は体調は最悪だったが全てに感謝ができるそんな一日だった。
5クール目の抗がん剤投薬終了から5日経過
今日は朝から少し体調がいいような気がした。
相変わらず食欲はないけれど、ここしばらくまともにご飯を食べていないので朝食に牛丼を食べに行こうと思う。
牛丼は舌がしびれていても多少はおいしさを感じて食べられると、前回の休薬期間中で実証済みだ。
牛丼を食べるも舌が痺れているのであまり味を感じない
近所のすき屋でミニ牛丼と味噌汁を頼む。
こういったミニ牛丼のようにミニマムなメニューがあると食欲に自信が無いときは助かる。
まずは味噌汁から恐る恐る飲んでみる。
うーん、お湯を飲んでるみたい。あまり味が分からない。
次に牛丼を一口。
なんとなく肉の風味だけは分かる程度でそんなにおいしいとも思わない。
舌のしびれは前回よりもひどくなっているのかな。
恐れていたのは口に入れた瞬間、吐き気を催したらどうしようということだったけどそれは無いようだ。
ここで紅ショウガをたくさん入れて食べる。
紅ショウガの味はよくわかるのでおいしく食べられる。
少量づつよく噛んで食べる。
ゆっくりと。
小さなミニ牛丼なのに食べても食べてもなくならない。
それだけ僕の食べる力が落ちているせいだ。
ヨボヨボのおじいさんが震えながらご飯を食べてるみたいだ。
ミニ牛丼と味噌汁、時間はかかったもののなんとか完食できた。
5クール目の抗がん剤の投薬終了してからサラダと果物ばっかりだったので久しぶりにまともなカロリーが取れた気がする。
お腹がびっくりしてないかちょっと心配だけどなんとか胃に収まったようでよかった。
ここで無理してご飯を食べても吐いてしまったら苦しくなるだけなので、なるべく食欲や吐き気に逆らわないように無理のないよう探りながらご飯を食べていこうと思う。