身体に異物を埋め込まれる。リザーバー留置と僕が考える抗がん剤のイメージ【がん闘病記30】
この記事ではヨシノ (id:yo_kmr)が2016年の7月初旬ごろに書いたメモをまとめています。
抗がん剤投与のためのリザーバー留置
2016年7月某日の今日、ポートともリザーバーともいわれる抗がん剤を効率よく身体に入れる為の小さな装置を皮下に埋め込む手術をするために前回大腸がんの手術をした総合病院にふたたび入院する。
正確に言うと明日から始まる抗がん剤治療のための入院になる。
手術というものは何度経験しても緊張する
振り返れば僕はこれまでの人生で何度となく手術台に上がっている。
20代のころ交通事故での右ひざの骨折による手術で2回、30代のころ左目の網膜剥離および白内障の手術で4回、それと先日の大腸がんの手術も合わせると結構な回数手術台の上に上がっていることになる。
でも、いくら回数を重ねても手術前となると緊張してしまう。
やっぱり痛いのかな?怖いなあ。
そんな思いが去来する。
今回の手術では500円硬貨くらいの大きさの装置(リザーバー)を右の鎖骨の下あたりの皮脂内に埋め込み、その場所を通っている太い静脈の血管にカテーテルを通してその装置とつなぐ。
大腸癌治療のための抗がん剤はこの埋め込まれた装置を介して僕の身体に注入されることになる。
普通の点滴と同様に腕から抗がん剤を入れるやり方でもいいらしいのだけど先生がリザーバーを介して抗がん剤を入れる方がいいというので素直に従うことにした。
このときはこのリザーバーというものにいまいちピンときていなかったが、後日薬剤師さんからいろいろ説明を聞くうちに理屈にあったやり方だということが分かり納得した。
手術開始
そうこうしているうちに手術開始の時間になり、手術着に着替えて手術台の上に横になる。
手術台の横にはまるで株の値動きを見張る腕利きトレーダーの机の上のようにたくさんのモニターが並んでいた。
手術台に沿って横移動できるようで天井から吊るされている。
モニターの数は6個くらい並んでいたと思う。
なんだか特別な手術室のようだ。
そして今回の手術は局所麻酔で行なわれる。
局所麻酔の怖いところはあたりまえだけど手術の最中にずっと意識があるってことだ。
全身麻酔みたいに寝て起きたらもう手術は終わってました、なんてことはない。
今までの経験上、執刀中の医師が思わず漏らす
「あっ…」
とか、
「うーん、難しいなあ…」
みたいな一言がことさら手術される側の僕を不安にさせることがある。
結果から言うと今回の手術は痛みとしてはそれほどでもなかった。
右鎖骨の下くらいの場所を手術するのだが、手術前に顔にシートのようなものを被せられるので手術の様子は分からない。
でも前述のように執刀医の「うーん、うまく入らないなあ…」みたいな一言はたまに聞こえてきていたのでちょっと不安にはなった。
でも最後の方になると痛みが少ないうえにこの状態にも飽きたのか、もうすっかり諦めてどうにでもしてくれって気持ちで手術台の上に横たわっていた。
手術にかかった時間はおそらく40分くらい。
局所麻酔なので手術後すぐ立って歩くことができた。
僕はサイボーグ?
あーあ…とうとう身体の中に異物を埋め込まれてしまった。
埋め込まれたところを触ってみると500円玉より少し小さいくらいの大きさでポコっと1㎝くらい隆起しているのが分かる。
これは抗がん剤の点滴針を打つときに狙いやすいようにちょっと隆起しているというか膨らんでいるんだと先生からの説明で聞いた。
宇宙人にさらわれて異物を埋め込まれる人の気持ちが少しだけ分かる気がする。
う~ん、ちょっと違うのかな…
それとも身体の一部が機械ということは広い意味でのサイボーグということに?
・・・これも違う。きっと。
明日から始まるベクティビックス抗がん剤
手術後、僕が入院する病棟に案内してくれる看護師さんが車椅子を持ってきてくれてたので、なんだかVIP待遇のような気持ちで車椅子に乗って病棟に上がっていった。
そんなことしなくても普通に歩けるんですけど…なんて思いながら。
病室に入る。前回とは違う病室。
4人部屋だけど今回も窓際だ、よかった。
今回の入院でも担当の看護師さんは前回と同じゴトウ看護師さんみたいだ。
一度担当になるとよっぽどのことが無い限りは変更にならないのかな。
しかし、あいにくゴトウ看護師さんはこの日はお休みみたいだった。
(今後も抗がん剤で何度も入退院を繰り返すのだけど、ちょうどゴトウ看護師さんがお休みのときに入院するタイミングが多かった。『担当なのになんかすみません』とゴトウ看護師さんが申し訳なさそうにしてたけど、日勤の他の看護師さんがしっかりやってくれたので別に気にすることないのにって思ってた)
明日から始まる予定の抗がん剤治療についてはリザーバー手術の前に担当医のウエノ先生から説明を聞いていた。
前回の手術で切除した癌細胞を遺伝子検査したところ、ベクティビックスっていう抗がん剤が有効らしい。
そのベクティビックスという抗がん剤は一番強いヤツらしいけど、その「強い」って言葉につい、尻込みしてしまう。
僕が考える癌細胞と抗がん剤のイメージ
僕もちょっとだけだけど抗がん剤については勉強した。
実のところ抗がん剤そのものには癌を殺す効果は無いらしい。
あくまで抗がん剤は癌の増殖を止めるだけ。
増殖スピードの速い癌細胞の分裂を抑えて増えていくのを食い止める。
増えるの食い止めてる間、実際に癌を殺すのは身体にもともと備わっている免疫細胞みたいだ。(白血球、マクロファージ、キラーT細胞、NK細胞など)
抗がん剤を使わなくても免疫細胞は癌細胞を「身体の中の異物」と判断して攻撃をするらしいが、とにかく増えるスピードが他の細胞よりも早いので攻撃が追い付かないらしい。
そこで抗がん剤で増殖を止める、もしくは増殖するスピードを抑えている間に免疫細胞が癌細胞を攻撃して減らしていく(小さくしていく)寸法なのだと思う。
※個人の感想です。
ただ、細胞の増殖を止めるってことは新しい細胞は生まれなくなる。
ただ、死にゆくのみ。
それに伴って健康な一部の細胞たちも増殖を止められ死にゆくのみになる。
巻きぞえってヤツ。
殉職者、いや殉職細胞たちだ。
だから身体にダメージを受けることになる。
先生は「細胞毒によるダメージ」って言っていた。
抗がん剤による副作用はこういうところからきていると思う。
あと、困ったことに癌細胞は抗がん剤に対して次第に耐性を持ってくることがあるらしい。
癌細胞が抗がん剤に対して耐性を持ってしまうと抗がん剤を使用する意味がなくなってしまう。
「強い」ってところに引っかかっているのはこれらのことがあるからなのだと思う。
※個人の感想です。
強い抗がん剤なら身体へのダメージも強いんじゃないのか?
その強い抗がん剤に対して僕の身体の癌細胞が耐性を持ってしまったら、もう打つ手がなくなるんじゃないのか?
そういう疑問が頭の中を行ったり来たりウロウロしている。
はあ…。
悩むくらいなら先生に直接訊けよって話しだ。
抗がん剤治療は大変だ、キツイと医師、薬剤師、看護師も口を揃えて言う。
あんまりビビらせないで欲しい。
未知なるものが最も怖いのだから。
僕はどちらかというと楽観主義なので抗がん剤治療はあんまり自分に副作用が出ない、出ても程度が軽いと信じていたい。
のんきな僕を邪魔しないでもらえたら、と思うがそうはいかないらしい。
被害者になっている
リザーバー留置の手術も終わって病室でぼーっとしていたら担当の薬剤師さんが来て、肌にできる副作用対策として保湿剤を持ってきてくれた。
その際に明日から始まる抗がん剤治療の副作用のことを少し話していったが、手の痺れ、下痢、食欲不振、倦怠感などネガティブなことをつらつらと並び立てていった。
だいたい、そういう副作用が出るのは投薬を開始して一週間後くらいが多いということも教えてくれた。
あまり暗い気持ちにさせないで欲しいなあと思ったけど、ここでふと重要な事に気がついた。
僕は今、被害者になっている。
いろんなネガティブな事柄がこれから降りかかってくるであろう被害者になっている。
それで、ネガティブなことを並び立てる薬剤師さんのことをまるで加害者のような気持ちで見ている。
いったい何を考えているんだ僕は。
薬剤師さんは僕のサポートを真摯な気持ちで一生懸命やってくれている。
感謝こそすれ加害者のように見ることは万に一つもない。
これは気をつけないといけない。
そもそも僕は被害者になる必要もない。
被害者も加害者もいない。
勝手に作り上げるんじゃないよ。
厚かましいな本当に。
感謝以外の何があるというのか
夕方ごろ、特にすることもないので気晴らしに病棟内をウロウロと散歩する。
ナースステーションの前を通ると看護師さんたちが忙しなく仕事をしている。
なんてありがたいんだろう。
そのエネルギーのひとつひとつに慈しみが込められてる。
病に苦しむ我々入院患者のサポートを全力でしてくださっている。
今まで何を見てきたんだ僕は。
偉そうに、被害者ヅラして。やってもらって当然くらい思ってたのか?
看護師さんはじめ病院のスタッフ全員が間違いなく現代のナイチンゲールじゃないか。
感謝以外の感情がどこに入り込む余地があるというんだ。
思いあがるなよ。
まったく。