幸せな癌患者に僕はなりたい【がん闘病記29】
この記事ではヨシノ (id:yo_kmr)が2016年の7月初旬ごろに書いたメモをまとめています。
思い立ったらすぐ行動。お世話になった社長さんたちにご挨拶
2016年7月。
今日は朝イチで弟から連絡があり、もし体調の方が問題なくて出かけられるようであれば今までお世話になった取引先の社長さんたちにひとこと挨拶しておいてもらえたら助かるとのこと。
大腸癌が発覚する前の僕の仕事
僕はこの大腸癌が発覚する前までは弟と一緒に塗装の仕事をしていた。
弟がそれまで勤めていた塗装店から独立したタイミングと僕が勤めていた会社が倒産したタイミングがほぼ同時だったので「暇だったら仕事を手伝ってくれ」と言われ4~5年は一緒に塗装の仕事をしていた。
でも癌が発覚し、自分の人生を見つめなおしたときに本当にやりたいことをやろうと決心して仕事はやめることを決め、その旨を弟には既に伝えた。
取引先の社長さんたちは僕の病気のことや入院していたことは弟から聞いて知っていたけど、急な手術および入退院だったのでなかなか見舞いにも行けずそのことを気に病んでくださっているらしい。
この先仕事で会うということも多分ないだろうと思うので早速今日挨拶に行くことにした。
思い立ったらすぐに行動しないと。
「いつかそのうち」なんて言って先延ばしにしてると、下手すりゃ先延ばしのまま手遅れになりかねない僕なので。
イワタ社長(仮名)にご挨拶する
塗装の仕事をしていた時によくお仕事をいただいてお世話になっていた社長は主に二人いる。
一人目は弟が独立する前に勤めていた塗装店のイワタ社長(仮名)だ。
事務所の場所が比較的自宅から近いこちらからお伺いすることにした。
昼過ぎごろ会社を訪ねるとちょうどいいタイミングで昼休憩中の社長にお会いすることが出来た。
イワタ社長は弟が若いころからお世話になっている社長で弟が独立した後もいろいろと目をかけてくださって大変お世話になった。
50代中ごろの若い社長だが人柄はよく、今までのご苦労の中で磨き上げられてきた人格をお持ちの方だと思っている。
心遣いが身に染みる
「かける言葉が見つからない」
僕と向かい合って座った社長は開口一番、悲痛な面持ちでそうおっしゃる。
軽々しく同情の言葉をかけないように慎重に言葉を選んでいるのが分かる。
死期を間近に迎えた者の心境など自分では到底理解できないし、軽々しく踏み込むべきところでもないとのご判断なのだと思う。
そういった心遣いがうれしく、僕の心に響く。
今までお世話になりましたとの謝辞を述べ、今現在の自分の近況や分かる範囲での病状とこれからの治療予定などを話した。
そして話も終わって帰ろうとした別れ際、僕はまだ誰にも言ってないこれからの目標というか決意のようなものを社長に告げた。
「幸せな癌患者」を目指して生きていきます
最初からこのことを言うつもりでお伺いしたワケではなかった。
なぜだかふと言いたくなった。
人柄のいいイワタ社長だからこそ、僕は自分の胸の内を素直に吐き出せたのだと思う。
「僕は癌患者です。その事実はこれから時間をかけて受け入れていかないといけないと思います。その事実を受け入れたうえで僕は『幸せな癌患者』を目指して生きていこうと思います」
僕がそう言うと社長は優しく微笑んでくれた。
おそらく僕はもう一緒に仕事することはありませんが、これからも弟がお世話になります。よろしくお願いしますと挨拶してその場を後にした。
僕が癌患者であることはおそらく覆せない。
これは僕が死ぬまでついて回る事実だろう。
自分が癌患者であることも受け入れないといけない。
それが僕なのだから。
そのうえで僕は「幸せな癌患者」として生きると決めた。
そう自分に、自分以外の人に宣言できたことで気持ち的にも前向きになれた気がする。
「幸せな癌患者」
それが僕の目標です。
サトウ社長(仮名)にご挨拶する
二人目はサトウ社長(仮名)だ。
年齢は50代前半の社長で弟が独立してから付き合いが始まり、たくさん仕事を振ってくれてお世話になった方だ。
その昔、塗装店として独立する前は大手企業で営業をされていたこともあり、営業手腕に長けた仕事のできる社長だと思っている。
サトウ社長の事務所は僕の自宅から遠いうえ、社長自身いつも忙しく動いている方なので、あらかじめアポイントメントを取ってから伺うことにした。
電話すると午後2時から3時くらいまでは事務所にいらっしゃるそうなので、これまたいいタイミングだとばかりにすぐに事務所へ向かう。
事務所を訪れた僕を社長はいくぶん心苦しそうな面持ちで出迎えてくれた。
健康診断や人間ドックには是非行って欲しい
「なんて言ったらいいのか…」
サトウ社長もイワタ社長同様に言葉を選んで話をされているのがよく分かる。
サトウ社長にもこれまでお世話になった謝辞を述べた後、僕の現状と病状、それとこれから予定している抗がん剤治療についての話をした。
これまでの経緯を話すなか、今更だけど僕の癌がもう少し早くに見つかっていれば癌の進行度も違ったのかもしれないという話になった。
社長自身も毎年人間ドックに行こうと思うけどつい忙しさにかまけていくことが出来ていないとおっしゃっていた。
ステージ4の大腸癌を告知された僕が言うのもなんだけど、時間を割いて人間ドックに行って何か異常が見つかれば早い対応が出来るし、病状の進行度も軽い可能性が高い。
逆に何もなければそれが一番いい。
結局のところどちらに転んでもいい結果になるので早めに是非行ってほしいと思う旨を伝えると。
「ありがとう、必ず行くよ」
とおっしゃていただいた。
最後にこんな状態の僕にどんな言葉をかけたらいいのか分からない、申し訳ない。
と、おっしゃっていた。
そのお気持ちだけで僕には十分だし、優しい気持ちが心に響いた。
ちょっと泣きそうになってしまったが「本当に感謝しています」と少し言葉を詰まらせながら話して事務所を後にした。
僕は優しい人たちに囲まれながら仕事をしていたんだなあと帰路につきながらしみじみと思った。
これからの恐怖
実際に今怖いのは癌ではなく抗がん剤治療の方だ。
いまだ未知なるものなのでどう転ぶか分からない。
つらいものになるのか拍子抜けするほどなんでもないものなのか 。
そもそも僕の身体の中にはびこっている癌に対して本当に効果があるのか。
それすらもやってみないと分からない。
何種類かの抗がん剤を提案されたが担当医のウエノ先生は遺伝子検査の結果をもとに効果が高いであろうものを選択するとおっしゃっていたが、怖いものは怖い。
怖いんです。